アルカリ電解水の安全性は?(Q&A_030)


産業用・家庭用の洗浄剤としてアルカリ電解水が流通している。その安全性や取り扱いの注意点について質問を頂いたので以下まとめておく。

【アルカリ電解水とは?】
塩を含まない水にプラスとマイナスの電極(陽極と陰極)を差し込んで直流の電流を通すと水が電気分解される。陰極では電子が水中に放出され、陽極では水中の電子が電極に引き抜かれる。もしも電極が白金や炭素などのイオンになりにくい安定な素材でできている場合、それぞれの電極では以下の反応が起こる。

陽極 2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
陰極 2H2O + 2e- → H2 + 2OH-

つまり陽極からは酸素ガスが生成すると共に水を酸性側に寄せるH+イオンが生成し、陰極からは水素ガスが発生すると共に水をアルカリ側に寄せるOH-イオンが生成する反応が起こる。
もしも水に食塩NaClが含まれており、陽極側と陰極側がNa+やCl-イオンを通す隔膜(イオン交換膜等)で隔てられている場合、陰極側ではNaOH溶液、陽極側ではHClとHClOの混合溶液ができる。つまり、陰極側ではアルカリ水、陽極側では酸化力のある酸性水が生成されることになる。市販されているアルカリ電解水とはこの陰極側で生成されるアルカリ水を指す。

※ 陽極でHClOが生成される反応は
 2Cl- → Cl2 + 2e-
 Cl2 + H2O → HClO + H+ + Cl-

【アルカリ電解水と水酸化ナトリウム水溶液との違いは?】
アルカリ電解水はNaCl水溶液、またはKCl水溶液を電気分解したものが多いが、基本的にそれらは固体の水酸化ナトリウムを水で溶解したNaOH水溶液、或いは固体の水酸化カリウムを水で溶解したKOH水溶液とほとんど同じものであるといってよい。但し、微量の水素が溶解しているので多少の還元性が付与されていると考えられている。
産業洗浄ではアルカリ電解水を生成する装置を組み込んだ種々の洗浄装置が製造・販売されているが、これは取り扱いがやや面倒な劇物であるNaOHやKOHを使わなくて良い点が大きなメリットとなる。なおNaOH水溶液もKOH水溶液も5%以下の濃度になると劇物から外れる。NaOHのモル質量=40.0g/mol、KOHのモル質量=56.11g/mol、pH=14となるモル濃度は強アルカリなので1mol/Lなので、NaOH溶液は40g/L=4%濃度、KOH溶液は56g/L=5.6%濃度で理論上のpHが14となる。pH13となるのはNaOH:0.4%、KOH:0.56%、pH12となるのはNaOH:0.04%、KOH:0.056%と計算される。

さて、ここで2026年1月19日現在でのアルカリ液の価格(Amazon)をみてみよう。
4%NaOH水溶液 500mL 1,375円:純水で10倍希釈してpH=13程度
5%NaOH水溶液 5kg 3,500円:純水で10倍希釈してpH=13+α
4%NaOH水溶液 2kg 2,250円:純水で10倍希釈してpH=13程度
強アルカリ電解水(pH13.2以上)4L 2,900円
強アルカリ電解水(pH12.5) 4L 2,200円

水酸化ナトリウム水溶液の方が高濃度タイプを入手しやすく希釈して使用することを考えればより安価である。但し液量当たりの商品価格は同程度と考えてよい。液体なので運送コストが多くの割合を占めるのかもしれない。


【アルカリ電解水は安全なのか?】
アルカリ電解水の商品に対して「原料が水なので安全です」と説明されている場合があるが、これは不適切な表示である。アルカリ度が同等の水酸化ナトリウム水溶液・水酸化カリウム水溶液と同等の危険性があると考えねばならない。但し、劇物である水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが入っているということで過度に危険性を重視する必要はない。あくまでその危険性は濃度による。たとえば、pH=10.5程度のアルカリ電解水(NaOHやKOHタイプ)は同程度のpHである弱アルカリ性洗剤水溶液よりも危険性は少ないと考えてよい。それは、界面活性剤云々ということではない。洗剤類のアルカリには緩衝作用がある場合が多いのに対してアルカリ電解水(NaOHやKOHタイプ)は一般に緩衝作用がないので、アルカリ度を保つスタミナがほとんどない。また空気中に曝しておくだけで、空気中の二酸化炭素を吸収して炭酸イオンや炭酸水素イオンを生成してアルカリ度が弱まる。アルカリ電解水で拭き掃除(水拭きなし)をした後の硬質表面はNaOH等が残留していそうで恐ろしく思われるが、大量の空気に曝されて炭酸Naや炭酸水素Naに変化する。NaOHには潮解性があるので水分が蒸発しにくいので、もし乾燥後に白色固体の残留がみられるなら、炭酸塩(湿度が高い場合には潮解性あり)、さらに炭酸水素塩(水溶性低い)となっている可能性もある。

以上のように、アルカリ電解水の危険性はそのアルカリ度に大きく依存し、pHが11を超えるようなものは取り扱いに注意を要し、pHが12.5を超えるようなものは非常に危険なものであると認識して対応する必要がある。

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横浜国立大学名誉教授 大矢 勝
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