過酸化水素の反応:酸化作用と還元作用(Q&A_028)

過酸化水素は洗浄分野で洗濯用の液体酸素系漂白剤の成分として知られている。また粉末タイプの酸素系漂白剤の主成分である過炭酸ナトリウムは、より化学的には炭酸ナトリウム過酸化水素化物とよばれ、法令上は炭酸ナトリウム過酸化水素付加物とよばれる物質であり、炭酸ナトリウムと過酸化水素の割合は2:3となっているが、水に溶解すると炭酸ナトリウムでアルカリ条件になった溶液中に過酸化水素を放出する。この過酸化水素は酸化剤としても還元剤としても働くという面白い特徴がある。以下、この反応についてまとめておく。

[過酸化水素の酸化・還元の半反応式]
過酸化水素の酸化剤および還元剤として働くときの半反応式(酸化のみ又は還元のみに分けて示す化学反応式)は下記のようになる。
酸化剤として:H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
還元剤として:H2O2 → O2 + 2H+ + 2e-
酸化剤は他の物質から電子を奪い取るので、左辺に「+2e-」が入り、それと同時に水素イオンHを消費する。還元剤は他の物質に電子を与えるので右辺に「+2e-」が入り、それと同時にO2を生成する。
過酸化水素が分解するときには過酸化水素が酸化剤+還元剤の両方の作用が働いて、2つの半反応式の和として下記のようになる。

分解反応:H2O2 → O2 + 2H2O
ただ、H2O2自体は比較的安定な物質であり、相手方が酸化剤あるいは還元剤として反応しやすい物質である場合以外には単独では反応が鈍い。求核反応型の酸化剤として比較的限られた対象物に選択的に反応する[文献5:表3・表4]。水中でH2O2はHOO- (ヒドロペルオキシイオン)と平衡状態にあり、アルカリ条件では下記の平衡式が右側に偏りHOO- の割合が増える。
H2O2  ⇄ HOO- + H+
HOO- の方がH2O2よりも反応性が高まるので、過酸化水素はアルカリ条件で用いる方が効果的になる。ただ、後述するが他にもアルカリ条件で酸化力が高まる理由はある。
なお、H2O2や HOO- よりも、ラジカルが生成される場合にはより大きな反応性が得られることになる。

[酸素・過酸化水素が関与するラジカル]
酸化剤や還元剤がラジカル(不対電子を有する不安定な原子・分子またはイオン)を生成し、そのラジカルが反応を引き起こす場合は反応が非常に激しくなる。過酸化水素から生成されるラジカルにはヒドロキシラジカル(HO・)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、スーパーオキシド(アニオンラジカル)(O2-)が挙げられる。
HO・は非常に強力な酸化力を有しており、H2O2に紫外線が照射される、或いは金属触媒が作用する場合などに生成される。例えば鉄(Ⅱ)イオンとH2O2との反応はフェントン反応と呼ばれ、下記のように表される。
Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH- + HO・
酸性条件下でFe2+イオンがH2O2に対して還元剤として作用してHO・を生成するもので、汚染物質の分解等で環境工学の分野で用いられる。

HOO・とO2-は水溶液中で相互に変化しあう平衡状態にあり、pHによってその割合が変化する。その当量点のpH=4.8付近とされており[文献1:p25]、中性~アルカリ性では大部分がO2-として存在する。
HOO・ ⇄ O2- + H+
O2- 自体は脂質等との反応性はそれほど大きくはないが、H2O2とは下記のように容易に反応してHO・を生成する(ハーバー・ワイス反応)[文献1:p25-26]。
O2- + H2O2 → HO・ + OH- + O2
アルカリ条件で過酸化水素の反応性が高くなる理由としてHOO- がH2O2よりも反応性が高いことを上述したが、このようにHO・が生成しやすくなることもその理由に挙げられる。

これらのラジカルはH2O2 やHOO- から直接的には生成されないが、水中の微量の金属、温度・光等の条件によって分解反応が進んでその際にラジカルが生成する。そしていったんラジカルが生成すれば連鎖的に分解反応が進んで反応性の高いラジカルの生成が繰り返される。特にアルカリ条件ではH2O2 よりも不安定で反応性の高いHOO- が生成されるのでラジカルを生成しやすくなる。これも過酸化水素がアルカリ条件で効果が高まる原因になる。
なおHO・とO2-は求電子反応、ラジカル同士のカップリング反応、C-H結合からの水素原子引き抜き反応の3タイプの酸化反応を起こすとされている[文献5:表3・表4]。

[参考資料]
[1] 吉川敏一・河野雅弘・野原一子, 活性酸素・フリーラジカルのすべてー健康から環境汚染までー, 丸善出版 (2000)
  各種活性酸素のORP図 [p18] 活性酸素の説明 [p22-28]
[2] 生命・フリーラジカル・環境研究会編, 水と活性酸素, オーム社 (2002)
  放射線と活性酸素 [p34-36] 体内の活性酸素図 [p68] 活性酸素の電子状態図 [p75]
[3] 卜部吉庸, 過酸化水素に関する4つの課題について, 理科資料97号, 実教出版 (2025) https://www.jikkyo.co.jp/download/detail/3/9992662029
[4] 横山朝哉, 過酸化水素の自己分解について, 紙パ技協誌, 67(12), 87-89 (2013) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/67/12/67_1451/_pdf/-char/ja
[5] 細谷修二, 過酸化水素漂白反応機構の基礎理論, 紙パ技協誌, 52(5), 595-607 (1998) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/52/5/52_5_595/_pdf/-char/ja
[6] 小方芳郎・田伏岩夫, 過酸化水素による有機物の酸化反応, 18(6) 368-387 (1960) https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/18/6/18_6_368/_pdf/-char/en
[7] 奥山晴彦・皆川基編, 洗剤・洗浄の事典, 朝倉書店 (1990) HOO-について[著者奥村氏:p87]
[8] 大矢勝他編, 洗浄の事典, 朝倉書店 (2022) HOO-について[著者末國氏:p240-243]

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横浜国立大学名誉教授 大矢 勝
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