洗浄・洗剤雑感20160926a

点滴に界面活性剤?

横浜市の大口病院で20日未明に点滴の混入物によって中毒死事件があったとのことで、私のところにも取材が来られて、本日のあさチャン(TBS)でもコメントが流れました。その場では、界面活性剤の性質や界面活性剤が死亡原因となる場合の仕組み等について短時間ですが触れました。

当然、そのように短時間では説明できるようなことではありませんし、界面活性剤の毒性について説明するには、本来は医学の分野の毒性学の知識と、界面活性剤の物理化学的な知識の両方が必要なのです。界面活性剤というのは、ちょっと変わった性質を有しているので、例えば環境科学の中での水生生物毒性等を扱う場合も、他の毒性物質とは大きく異なる機構で生物にダメージを与える場合があるのです。

それと、たんに界面活性剤といっても、汚れ落としに強い陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤と、柔軟作用や殺菌作用に強い陽イオン界面活性剤があります。後者は逆性石鹸と言って、消毒用にも用いられるタイプです。当然前者よりも後者のほうが毒性は強くなります。

では検証のための毒性データから。点滴での毒性というのは、そうそう見かけるものではありませんが、汚れ落としを得意とする代表的な陰イオン界面活性剤については静注試験のデータなども存在します。「洗剤の毒性とその評価」(厚生省・1983)のp21には、代表的な界面活性剤であるLASの静脈注射のLD50、つまり半数致死濃度は98〜298mg/kgとの記述があります。およそ100mg/kgと見積もりましょう。すると、体重50kgの人であると、5000mg、つまり5gという事になります。洗剤液では25%程度の濃度と仮定すると、20mLの洗剤液を注入するという事になりますね。ちょっと今回のケースでは多すぎるような。

陽イオン界面活性剤の静注毒性のデータは持ち合わせていないので予想になってしまいますが、もっと少量で致死に至るでしょう。特に、この成分の入った商品は「消毒」等が訴求されているものが多くいのが特徴です。

その他、洗浄に強いタイプの界面活性剤は、ものを濡らしやすくするという事で、一般の漂白剤等にも含まれている場合が多いです。漂白剤と洗浄用の界面活性剤の毒性を比較すると、圧倒的に漂白剤成分のほうが毒性が大です。漂白剤の酸化剤成分なんて体内に入ると反応してなくなってしまいますので、少量の界面活性剤だけが残るという事にもなりえます。

という事で、一般の洗剤類に含まれているのと同じタイプの界面活性剤が直接の死因につながった可能性は比較的低いかなと思っています。もし洗剤用の界面活性剤が原因とするなら、つまり台所用洗剤や洗濯用の液体洗剤などを使った場合ならば、界面活性剤と生体たんぱく質が結合してたんぱく質変性を起こした、また溶血作用を起こすなどが考えられるでしょう。

でも、個人的には洗剤の界面活性剤が容疑者対象から外れてくれることを祈っています。

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