深刻化する洗剤の消費者情報問題

筆者は1995年頃より合成洗剤は有害だから排除せよとの主張が間違っていると、著作、その他で発言してきたが、ここのところ、石けん・洗剤問題については発言することが少なくなった。最近は、洗浄技術・試験法、また洗剤の環境影響についての研究を中心に取り組んでいる。生活・産業の種々の場面での洗浄法の改善にタッチできれば、実際の環境問題への対処という点で貢献できるだろうと考え、また洗剤の環境影響に関する研究は、自身で発言してきた「合成洗剤に特に問題はない」との点について、本当に問題ないのかという点を確認したいと思い、もし環境影響を低下させる策が見つかればラッキーだと思ったからだ。社会的な活動としては、消費者が環境問題の全体像をどうやって捉えればよいのか、また消費者が科学的な判断法を身につけるにはどうしたらいいかといった巨視的な立場からの課題に取り組んだり、機能水、○○イオン、除菌、食品添加物などの個別の消費者情報の問題点等に関連した仕事にタッチするようになった。

合成洗剤・石けん論争に関しては、一応著作等を通して消費者リーダーや消費者グループ等に向けて、その安全性・環境影響の科学的な判断のための材料は示してきたつもりであり、それ以降も私の判断、すなわち「現在の一般的な合成洗剤は排除の対象となるようなものではない」という考えを変えなければならない新情報も入手していない。よって、それ以上合成洗剤・石けん問題に言及する必要はないと考えていた。

しかし、インターネット等を通して石けん・洗剤類の問題ある商法が広がりつつあることに懸念を感じはじめた。それは、他の商品・サービスの広告・宣伝等で問題点が明白になったものと比較して、同等レベルだとみなせるものだ。また最近、合成洗剤を排除して石けん使用を広めることを基本方針とする自治体が現在でも存在していることを知り愕然とした。ナチュラル・クリーニングというものも流行し始めたが、それ自体は本来問題あるものではないはずだが、インターネットでの問題商法との関連で危うい方向に踏み出しつつある。

そこで、再び合成洗剤・石けん問題について意見を述べていくこととした。 言いたいことは単純なこと。
◇環境・安全関連の広告・宣伝には科学的根拠が求められる

たったこれだけのことなのだ。だが実際には、実体のないイメージを刷り込んで合理的判断を狂わせる商法がまかり通る。刷り込まれたイメージとは怖いものである。例えば、米不足でタイ米の輸入をめぐる論議が沸き起こったとき、タイ米の倉庫にはネズミやゴキブリがいると報道された。そういう生物がいるのは食品倉庫なら当然のことだが、頭の中でネズミやゴキブリが這い回る様子をイメージしてタイ米を避けたくなった人は多いだろう。「あなた、今日はとても悪いことがあるわよ」などと言われただけで、大変な恐怖を感じる人もいる。「先祖の呪いを解くために壷を買え」、「このままでは家が倒壊するから補修工事しろ」、「今のままでは癌になるのでこの水を飲め」など、不安を掻き立てて冷静さを失わせて効果のない高価な商品・サービスを売りつけるのは悪質な商法なのだ。先日、高校理科教員の方々と教育一般について意見交換する機会があった。今の高校生は、覚えることは優秀だが、年々考えることが苦手になってきたとのこと。まさに、イメージ商法の絶好のターゲットではないか。インターネット等を媒体とした悪質商法も今後益々広がりをみせるであろうことは必至だ。

そのような商法に対して、一般には消費者リーダーがその問題点を認識し、抑止力となる。ところが洗剤関係では消費者リーダーレベルでも合成洗剤が有害であるとするイメージを刷り込まれた人々が多く、当たり前の判断手続きがとられない。これはなにも合成洗剤を擁護しろというのではない。科学的根拠に従って論理的に判断するということを当たり前の判断手続きといっている。

食分野ではフードファディズム、医療分野ではアトピービジネス、その他機能水関連の問題情報など、各分野で疑似科学のイメージ商法と科学的視点尊重者との間で消費者情報をめぐる綱引きが行われている。一方、洗剤関連をみると、以前のように声高に合成洗剤有害説を論じる人はほとんど見かけなくなったが、「有害な合成洗剤は・・・」と、刷り込みイメージを前提とした主張が無数にみられるようになった。そして、それらの情報は疑似科学的イメージ商法に利用されている。洗剤関連の消費者情報をきっかけに、消費者の科学を重視する体制が大崩壊を起こしかねない。

界面活性剤濃度30%程度の洗剤が1kg強が250円、漂白剤(過炭酸ナトリウム)が1kgが1000円弱で販売されているが、同様の界面活性剤を用いてその濃度が10%程度+過炭酸ナトリウムの洗剤が1kgが8000円で「お得だ」といって販売されている。1Lが500円程度の液体洗剤と内容的にあまり変わらない洗剤が1Lが4000円以上で販売されている例もある。これらの商法に共通するのが従来品は有害だというイメージを利用して価格感覚を狂わせていること。このような手法を消費者行政等に携わる立場の人は決して支持してはならない。そして、このように一般洗剤の有害性イメージを利用して価格感覚を狂わせている商法のモデルとなっているのは石けん商法であることを是非知ってもらいたい。

====
 大矢 勝 (2006.1.11)