[1]このページの目的

大矢勝:2004.10.7]

 最近、インターネット上で合成洗剤を否定して石けんを肯定する内容のWEBページが多くなってきたようです。生活に密着した環境や安全に関心を持つようになり、自分の学んだことを広く伝えたいと考えるようになった一般市民や、作家や芸能人等から、石けん生活を推し進める内容の情報が発信されています。

従来は情報の受け手でしかありえなかった一般消費者レベルで、情報を発信することができる環境を手に入れることができ、その情報環境を利用して、環境や安全に関連するポジティブな情報を発信していく行為、それは非常にすばらしいことです。また、著名人がその知名度を生かして、本来の守備範囲ではない部分にまで関心を広げ、色々と意見を述べて一般市民の関心を高めていくことも好ましいことでしょう。

しかし、残念ながら環境や安全に関する情報には落とし穴があります。環境や安全に関する内容の元情報は理化学的専門情報が大部分を占めますが、理化学的専門情報は専門家レベルの人以外にはなかなか理解することができません。そして、その理化学的専門情報が一般消費者レベルに伝えられていく過程で、大切な情報が読み違えられたり欠落したり、存在しない情報が付け加えられたりして、その中身がすっかり変わってしまう場合が多々見られます。
その専門家レベルの理化学的情報が一般レベルに伝わっていく過程で、その内容が変化してしまい、いびつな状況を生み出している典型的な事例が、実は「合成洗剤の有害性」に関する情報なのです。

現在インターネット上でよく見かけられる石けん推進型情報の大部分は、科学的に誤った情報を根拠としています。「私は石けんが好きだから、皆さんも石けんを使いましょう」のニュアンスには問題はないのですが、「合成洗剤は有害だから石けんを使いましょう」とのニュアンスは科学的にみれば大きな問題を含んでいるのです。

私は、これらの「合成洗剤v.s.石けん」に関する消費者情報の問題を研究のメインテーマに位置づけて活動している研究者です。以前、大学で私が管理するサーバ上のWEBページで「合成洗剤v.s.石けん」の視点から、合成洗剤有害説を批判する文章を書いていました。しかし、色々と事情があり、そのページは一旦閉鎖しました。その後、私は環境問題や安全に関する情報は今後どうあるべきかということを色々な視点で考え、「環境情報学」としてまとめることを目指してきましたが、その全体像が見える段階に至りました。そこで、再び私の専門領域である「合成洗剤v.s.石けん」の分野での情報発信に取り組んでいきたいと考えるようになりました。

実際に、地球次元の環境問題を含めた広い意味での環境問題を考える上で、日本国内だけでの「合成洗剤v.s.石けん」の問題などは、非常に小さく、どうでも良いといってのいいくらいの問題です。しかし、「情報のあり方」との視点で捉えることにより、より深刻な問題、たとえば「地球温暖化に日本はどのように対応すべきか」、「難分解性有害化学物質の地球規模での汚染対策はどうあるべきか」、「地球規模での食糧危機に備える日本の対応策」などを考えていくため、市民にはどのような形で情報が提供されるべきか、市民レベルでどのように情報を発信していくべきか、また意思決定に結びつける個人レベルの情報処理はどうあるべきかを考えていく上での、重要なヒントを得ることができるでしょう。

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