「洗浄・洗剤の科学」解説コーナー
 【Ⅰ.洗浄の基本】


1.分離型洗浄・溶解型洗浄・分解型洗浄の3種の洗浄パターン

横浜国立大学教授 大矢 勝
E-mail:oya-masaru-hs@=@ynu.ac.jp (←@=@を@に変更してください)

洗浄は、不要な汚れを被洗物から除去する操作であるが、その基本メカニズムからみると分離型洗浄、溶解型洗浄、分解型洗浄の3種に分けて捉えることができる。実際の洗浄系では必ずしも3種のメカニズムのどれか一つだけが作用しているわけではなく、複雑に絡み合っている場合が多いが、洗浄の仕組みを科学的に捉えるためには、この3種の基本メカニズムを押さえておく必要がある。

分離型洗浄は界面活性剤やアルカリ剤の作用で汚れを固まりの状態で引き剥がして除去するものである。この際、基本的に汚れ分子同士の間には相互に引きあう力が働いており、結晶を構成するなどの凝集状態にある。溶解型洗浄は汚れの分子間の結合力が弱まり、汚れは結晶等を形成せずに分子単位でばらばらの状態になり、水や有機溶剤などに溶解して除去される。水での溶解洗浄は最も簡単な洗浄であるが、一般には弱酸、弱アルカリ、酸化剤等を利用して溶解力を高めたり、または有機溶剤を用いるなどの方法で洗浄する。分解型洗浄は分子の内部を破壊して、汚れを汚れではないもの、または非常に除去しやすい汚れに変化させて除去する。有機物の汚れであれば、二酸化炭素と水にまで分解することを目指すタイプであるが、通常の洗浄では、そこまでの強力な分解作用は必要としない。

3種の洗浄パターンの中で洗浄の効率からみて最も望ましいのは分解型洗浄であり、次に溶解型洗浄、そして分離型洗浄はあまり望ましくない。分解型洗浄では汚れ自体を無くしてしまうものであり、100%の除去を達成することが比較的容易である。溶解型洗浄では溶解した汚れが残留することが問題となりやすいので、すすぎの効率を高める等の工夫が求められる。分離型洗浄では汚れの分離自体が比較的難しく、また分離した汚れの再付着にも注意を払う必要がある。一方で、被洗物に対してダメージを与える可能性は、分解型洗浄が最も高く、次いで溶解型洗浄に問題が起こりやすく、分離型洗浄が最も被洗物に悪影響を及ぼしにくい。分解型洗浄は分子を壊すレベルの強力な作用があるので、当然、被洗物にも悪影響を与える可能性も高い。溶解型洗浄も被洗物に浸透して膨潤を招き、被洗物の性能劣化に結びつく場合がある。

一般に洗浄に用いられる化学物質としては界面活性剤が代表的なものとして取り上げられるが、界面活性剤の主な働きは上記の分離型洗浄を推進することであり、その洗浄パフォーマンスは高いとはいえない。界面活性剤が比較的よく用いられるのは、分離型洗浄の利点、すなわち分離型洗浄では被洗物に対するダメージを少なくして汚れを取り除くことができる点を活かすためである。
 以上のように、分離型洗浄、溶解型洗浄、分解型洗浄に汚れの除去能力、被洗物への影響等で色々と違いがある。実際の洗浄のシステムを構築する際に、非常に重要なポイントとして押さえておく必要がある。
(2009.1.15)

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