洗浄の「酸・アルカリ中和説」の注意点 (ver.20160513A)


  ここで「酸・アルカリ中和説」と呼んでいるのは、掃除や洗濯等のテクニックを説明する際に理屈としてよく用いられているものです。無機物系の金属汚れには酸の洗浄剤が適しており、動植物油脂や蛋白質などの有機物系の汚れにはアルカリの洗浄剤が適しているという傾向が洗浄の分野では常識とされていますが、最近は無機物の金属汚れをアルカリ性の汚れ、油脂系の有機物汚れを酸性の汚れと呼んで、アルカリ性汚れは酸で中和、酸性汚れはアルカリで中和して除去するという表現がよく用いられるようになって来ました。
  酸とアルカリの中和ということで非常に分かりやすい表現なのですが、実は化学の世界でいう「中和」とは異なるメカニズムで多くの汚れは除去されています。何より、金属汚れをアルカリ性の汚れ、油脂系汚れを酸性の汚れと呼ぶのも科学的には誤りで、酸とアルカリのどちらを使えばよいかを分かりやすくするための俗称としての意味合いで捉えるべきです。実際、汚れの酸・アルカリ度合いを測定すると、酸性でもアルカリ性でもないものが大部分を占めます。
  最近では洗浄における「酸とアルカリの中和」という表現があちこちの場面で混乱の原因になることもあるようです。中和というのは化学の世界では非常に重要な項目であり、中高生等に誤った知識が広がって、不利益を被ることなどがあっては困りますし、また実際に「科学的な理屈だ」として信じるようになっている方も多くなってきたようです。そこで本稿では、洗浄における酸とアルカリについて整理して、どのように考えればよいかを説明したいと思います。

【1】関連用語の整理

【2】水は中性なのに塩基?

【3】アルカリで油汚れを落とす仕組み

【4】酸で金属汚れを落とす仕組み

【5】酸・アルカリ洗浄理解の注意点

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大矢 勝
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