以上のように、酸、塩基およびアルカリに関する基本事項を整理しましたが、これらの事項を扱う際には、pHに関連する酸性・アルカリ性(塩基性)の度合いと、酸・塩基反応の酸と塩基の関係という2つの側面を分けて考えることが望まれます。例えば、次の事例をもとに考えてみると分かりやすいと思います。純粋な水は酸性・アルカリ性の度合い、つまりpHからみると中性なのですが、酸・塩基反応の中では塩基として作用するというものです。自然界の水は二酸化炭素が溶け込んで若干酸性側に偏るものなのですが、二酸化炭素の溶け込んでいない純粋な水はpHが7(25℃)の中性になります。しかし、興味深いことに、水は下記の水素イオンとの酸・塩基反応で塩基として作用するのです。
H+ + H2O → H3O+
水素イオンはそのままでは不安定なので、水分子H2Oと結合してヒドロニウムイオン(H3O+)という状態になります。その際、水素イオンは本来有している電子一つを放り出して、電子を有していない陽子一つの状態になっています。電子を有していないで、電子の受け皿だけを持っている状態なので、ルイス酸です。水分子は一つの酸素原子と二つの水素原子が結合した状態です。水分子の中の水素は酸素との間で電子を一つずつ出し合う共有結合という化学結合で安定になっていますが、酸素原子には水素との結合に使った2つの電子以外に、4つの電子が余っています。水分子としては安定なのですが、酸素原子には2組の電子対(2個の電子が対になって外部にさらけ出された状態)を有しています。
すると電子対を受け取りやすい水素イオンと電子対を与えやすい水分子の中の酸素原子が結合して、ヒドロニウムイオンが出来上がるというわけです。この際、水分子は立派なルイス塩基として働いたことになります。よって、この反応において水は塩基だと呼ぶことができる訳です。でも水はアルカリ性ではありません。より一般的な表現を用いるならば、「水は塩基だけれどもアルカリ性ではない」ということができるでしょう。
仮に、上記の水分子が汚れであったと仮定しましょう。上記の反応で水分子汚れが除去できたと想定するのです。するとこの場合、「水はアルカリ性の汚れだから酸で落ちる」と表現できるでしょうか?それは、やはりダメですね。アルカリにはpHの高い水溶液、或いは水に溶かすとpHの高い水溶液になる物質という意味が含まれていますので、水をアルカリだと呼んだり、水をアルカリ性の物質だと表現することは許されません。これと同様の混乱が、洗浄の酸・アルカリ中和説の中にしばしば見られます。
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大矢 勝
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